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「失敗の本質」読んだ

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

  • 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1991/08/01
  • メディア: 文庫
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id:shimobayashi さんが下記のブログエントリで紹介していて, 「面白そう!」と思って買って読んでました.

shimobayashi.hatenablog.com

この本は, 第二次世界大戦前後における日本軍の6つの戦い, つまりノモンハン事件, ミッドウェー海戦, ガダルカナル島の戦い, インパール作戦, レイテ沖海戦, そして沖縄の戦いという, 6つの戦いを通して, 日本軍がそれぞれの戦いで敗北に至った理由を, 組織論の観点で考察している本です. 戦史の研究家と組織論の研究家が協力して作り上げた本なので, 論ずるにあたっての前提となる, それぞれの戦いの経緯や経過なども非常に丁寧に書かれていて, そういう意味では「組織論」の本としては極めて異色と言えるかもしれません. 歴史が好きな人にとってはかなりとっつきやすい(?)組織論の本, と言えるかもしれません.

本書は, 大きく分けて3つの章によって構成されています. まず1章はケーススタディとして, 先に挙げた6つの戦いにおいて, その前提(どのような経緯があり, それを踏まえてどのような作戦が立案されたか)や実際の戦における経緯(どのような出来事があり, どのような判断が成されたか)が紹介されます. その中で, 日本が敗北に至った(あるいは, 敗北による影響をより強めてしまった)日本軍の問題点が取り上げられていきます.

先も述べたように, 戦史の研究家が関わっているということもあって, それぞれのケーススタディは経緯や経過が非常に丁寧に綴られていると感じました. とはいえ, ケーススタディにおける戦史の解説は, あくまで考察のための一要素なので, 各々の戦いの"全ての経過"が紹介されている訳ではありません. なので, (そんな人はいないと思いますが...)本書を戦史の本として読むと, 非常に不完全燃焼という感想になってしまいそうです.

2章と3章は, これらのケーススタディを元にして, それぞれ「日本軍の失敗の本質は何か」, 「その失敗の本質から何を教訓として得ることが出来るか」について解説されています. 特に印象深かったところは「分化」と「統合」について述べている部分で, 引用すると,

組織の環境適応理論によれば、ダイナミックな環境に有効に適応している組織は、組織内の機能をより分化させると同時に、より強力な統合を達成しなければならない。つまり、「分化(differentiation)」と「統合(integration)」という相反する関係にある状態を同時に極大化している組織が、環境適応にすぐれているということである。「分化」というのは、上述の引用が示唆しているように、環境特性によって、組織の構成員の目標、時間、人間関係についての態度やものの見方が違ってくるということである。

組織が大きくなると, 機動力を維持するためにも, うまく「分化」していくことを考えがちです. しかし, それだけでは不十分であり, 「分化」はもちろん実施した上で, より強力な「統合」も成し遂げなければならない... と書かれています. この視点は自分自身なかったので非常に参考になりました. また, 日本軍と米軍の組織構造の違い, すなわち陸軍や海軍といった各軍を統括する組織の権限や役割についての考察も印象深かったです.

この辺りを含めて, 最近感じていた現職の組織的な課題を, うまく言語化している部分が多々あって, かなり勉強になったと思います. 一方で, 本書では「失敗の本質の考察と教訓」について述べるにとどまっていて, そこから今現在日々を過ごしている組織に対して, どのようにアクションを取っていくことができるか... という部分は取り上げられていません. とはいえ, 組織の問題点を丁寧に解説している本書は, 自分たちの組織の問題点を言語化していくにあたっての道標になってくれる事は間違いないと思います. そして, 問題点を言語化することができれば, その解決に向かってかなり前進することが出来た... と言えるのではないでしょうか. 所属しているチームや組織に対して, 何かうまく進めていない感じもするけれど, その原因をうまく表現できない... そういった時に読んでみるとたいへん気づきのある, 良い本だと思います.

次は「人を動かす」を読む予定です.